桜の功罪

08 April, 2009

春の審査も終わったので、そろそろ落ち着いて古流の稽古をしようかと、道場に行く。
近年、審査もめっきり厳しくなり、高段位になるとなかなか受からなくなった。5〜6回受けるなんてのもザラで、それでも受からなくてチャレンジし続けている人も多い。

剣道連盟の審査はまことシビアで、高齢の受験者が、毎年、地方から夜汽車で揺られてきては、慌しく稽古をし、受験して帰るという光景も珍しくない。
他武道では、高段位になると推薦で自動的に上がる場合も多いが、このへん、年功を積んでも安穏としていられない、というのは長所なんだろうなあ…

今回はそんなに厳しい段位の審査ではなかったのだが、やはり不合格組が沢山いて、さすがに彼らは稽古疲れか、姿が見えない。ちらほら…という人数で稽古をする。

近くの公園では桜が満開だ。道場の窓から花盛りの樹が見える。代々木のこの付近、昔から住んでいる人も沢山あって、路地を一本入ると落ち着いたたたずまいだ。花見客もずいぶん出ている。

いい天気なのに、というか、いい天気だからというか、稽古を終えると、何故か咳き込んでいる人が多い。私はもともと呼吸器系が弱いのだが、稽古不足がたたって、気合の呼吸量に体力が追いつかなくなったのか……まったく何ともなかったのに、咽喉がおかしくなってきた…
しかし、風邪が流行ってるわけでもないし、それほど空気が乾燥してるわけでもないのに、何故、みんながみんな、咳き込むんだろう…真冬でもこんなことはない。

「ヘンだよねー、空気が悪いのかな、咽喉がおかしい」
「道場も建って長いから、細かい埃が舞ってるんじゃないの」
そういえば、道場の壁と天井はすべて防音の為にグラスファイバーが入っている。体当たりで吹っ飛ばされて叩きつけられても、適度にクッションが効いているので、柱の出っ張ったところにぶつからない限り、痛くない。恐怖心がそれで押さえられるわけではないのだが。
長年経つと、こういう部分から細かい埃が出てくるのかなあ…

「しかし、この道場もよくもってるよね。35年か…」
「ほんとの手作りだもんね。お陰でしっかりしているのか」
「さすがにここは、誰かがぶつかって破ったみたいだけど」

壁の一部に、明らかにバリッと蹴破った形跡が残っている。
そんなことを気にせずに稽古できるのが、個人の町道場の有難味なのだが、そのぶん、稽古は激しい…咽喉が…なんて言っている場合ではない。

「桜の花粉とか飛んでるんじゃないのぉ」
「そう言えば…花粉症ってほどじゃないけど、最近、鼻から咽喉がおかしい。なんか違和感がある」

うーん、どうなんだろうか。杉の花粉症は排気ガスと一緒になって発症するらしいが、桜も街中では、桜花粉症ってのがあるんだろうか。

考えてみると、昔からこんなに街中に桜の樹があったっけ?最近はどこの町も、桜の季節になると一面の花盛りをよく見るが、考えてみると少しおかしい。こんなに町中の樹で桜の比率が高いのって、少し不自然じゃないか?
昔は公園の一画にだけ桜が咲いてて、それだから桜の花を愛でることができたのだけれど、こんなにどこもかしこも桜だらけだと、何となくバランス的におかしいのではないか、という気がしてきた。

私はもともと桜がそんなに好きではない。桜は一枝だけをクローズアップして見ると、非常に可憐で美しい。特に三分咲きから五分咲きぐらいの開きかけた蕾の桜は、本当に風情のある見ものだ。
しかし、こんなに樹々に鈴なりになって、公園が一面のうすピンクという光景には、どうも馴染めない。

感覚的な話はさておいても、桜にはエフェドリンという覚醒作用を持つ物質が含まれているので、花見で浮かれ騒いで無礼講ってのも、ある意味で当然って話もあるようだ。
エフェドリンは気管支拡張作用があるので鎮咳や喘息の薬に…?うーん、やっぱり気管支に関係があるのか。
普段は何ともなくとも、稽古して心身ともに高揚した状態になると、この桜の中の化学物質が、過敏に反応するのではないだろうか?
薬と毒は裏表なので、私のヘソ曲がりな感性は置いとくとしても、やっぱり過剰な桜並木には要注意かもしれない。

自宅周辺には公園や学校があり、スーパーに行く途中の道がずっと桜が咲き誇っているコースなので、嫌でも毎日のように見てしまう。桜の樹の下を通ると、微かな香りと共に、独特の粉っぽさが鼻と咽喉に感じられて、何となく気になる。
マスクをして歩いたほうがいいかもしれない。
洗濯物も、しばらくは外に干さないように心がけよう。

桜は咲いている時期が短いので、美を感じることもできるし惜しまれる花だ。しかし何年か前に、5月になっても桜の花が散らずに枝にしっかりしがみついていた時には、心底うんざりした。
桜よ、自分の立場をわきまえなさい、という感じ(笑)

このところ、お天気が穏やかなのはいいのだが、あんなことにならないよう、桜は春の嵐で潔く散って欲しいものだ。

tao

« Prev item - Next item »
-------------------

Comments


No comments yet. You can be the first!

Leave comment

このアイテムは閲覧専用です。