楽しい映画のちがう見方・その2「夢のチョコレート工場」

10 September, 2010

「夢のチョコレート工場」を選んだのは、私はジーン・ワイルダーが大好きで、数少ない主演作を片っ端から集めているからだ。
主張し過ぎない確実な存在感と、不思議でファンキーかつコミカルな味わいを出せる稀有な俳優だと思うのだが、なにせ出演作が少ない。

そんなわけで、ブルーレイの試験的購入に、「夢のチョコレート工場」を選んでみたのだが、今回改めて鑑賞してみて、映像の質や映画脚本の優劣とは全く違う部分に、目が行ってしまった。
どっかで読んだレビューで、こんなのがあった。
「チャーリーが金のチケットを発見した時に、チョコレートを捨ててしまうのが気になった」
私は、このレビューを読んだ時、(なんだか細かいことを気にして、映像を楽しめていないレビュアーだなあ)と勝手に考えたのだが、今回再見してみてまったく同じ感想を持った。初見の時には「やっとジーン・ワイルダーの映画を手に入れた〜!」状態だったので、アバタもエクボだったのだろうか(笑)

あんなに老人を抱えて、孫息子の新聞配達のバイト料でやっとパンを買っている生活で、チョコレートという貴重な嗜好品を、うわあーっ!と捨ててしまうのは、いかにも不自然。
たぶん、常食のキャベツのスープも、自家栽培で賄っていて、買ったものではないのでは…。

普通は、チョコレートも忘れずに大事にポケットにしまって、みんなで分けて食べる、というのが、庶民感覚で親近感が持てると思う。
「当たったー!、うわぁーっ!」と、あくまでもファンキー路線でいくのなら分かるのだが、チョコレートを投げ捨てる音まではっきりと収録されていては…食糧難の世代に生まれた私にとっては、ちょっと残念だった。

今回すごく気になったのは、金のチケットが当たる前後の導入部分だ。
家族にパンを買って帰る前に、新聞のスタンドのおじさんから給料を貰うシーンがある。
この時にチャーリーは「今日、給料日だよね?」と自ら言う。
雇い主は「そうだよ」と言ってコインを手渡す。

なんだか当たり前と言えば当たり前の話なのだが、この時に私は、あることを思い出してしまった。

え?、雇われたほうが「今日は給料日ですよね」と言わないと、雇い主は給料をくれないの?何気ないシーンで、特にこの映画ではチャーリーがワクワクしながら「今日は給料日だよねー」と子どもらしく言うので、あんまり気にはならない。
なのにこんな事を気にするのは、こんな話があるからだ。

バブル期の話だからけっこう前のことなのだが、知り合いのフランス人で、日本でフランス語学校を経営している人がいた。その学校の経営が思わしくないというので、経営に詳しい友人が、経理の内容を見てみようと言うことになった。

見てあげた人は中国系の日本人なのだが、あることに気づいた。
語学校だから、当然のことに、月謝が売り上げとして計上され、支出のほうは講師の給料や学校の建物関係の維持費や雑費がある筈だ。それらの支出のうち、大きなウエイトを占める筈の、講師の給料が計上されていない。

なぜ講師の給料が記録されていないのかを尋ねると、なんとその経営者は「だって、みんな貰いに来ないんだもん」とのたもうたそうなのだ。

ちゃんと尋ねないほうも、自ら払うべきものを払わないほうも、どっちもどっちだと思うのだが、こんな基本的な部分でギクシャクしているので、講師が居付かず、そのお陰で生徒もだんだん離れていってしまって、経営が傾いてしまったというわけだ。

現在ではたぶん多くの会社が振り込みなので、こんなトンでも話はなかなか聞けないと思うが、日本人と欧米人の習慣とか生活感情の違いが、こんなところで如実に現れたようで、ひどく印象深かった。

この「夢のチョコレート工場」は、単なる子供向けのファンタジーではなく、意外にきつい毒のあるお話だ。童心に帰って楽しむというよりも、けっこう残酷童話っぽい面が目に付く。
そういう作品であるが故に、この映画の中で「給料下さい」という要求シーンが盛り込まれていたのが、なおさら印象深く感じたのかもしれない。
ジーン・ワイルダーの持ち味も、この作品にピッタリで、映画の中でウィリー・ワンカの初登場シーンなんか、まさに度肝を抜かれる。ジョニー・デップ版もいいが、ジーン・ワイルダー版を未見の方は、ぜひ楽しんで欲しい。

tao

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