問題のないところに問題を作り出す人々

27 September, 2009

ヘンなタイトルだけど(笑)私がもった実感。
じつはこれ、ロードムービーの金字塔とされる「パリ、テキサス」を見て抱いた感想だ。

この作品、スライドギターが全編に使われているというので、それだけで是非見なければ、と前から思っていたが、レンタルを探してもなかなかなく、やっと最近見た。
見た結果は…私的に「なんじゃこりゃ?」の部類の作品に入ってしまった。
確かに良い作品で、演出にも役者の熱演にも大拍手なのだが、私は映画としてはそんなに高い評価はできない作品だった。

あまりサスペンスやドンデン返しを楽しむような作品ではなく、細部を楽しむ映画なので、ネタバレを気にせずに書いてしまう。

テキサスの荒野を、衰弱しきった男がフラフラと歩いている。この男は自分が何者なのかも分からず、過去の記憶を無くしている。病院に保護され、所持品を手がかりに彼の弟が迎えに来る。彼に妻子が存在することが明らかにされ、わずかな記憶を手がかりに、彼自身を取り戻す旅が始まる。

と、出だしを見ると、面白そうではあるが先の思いやられるストーリー。物語はこの後、さしたる波乱はなく割りにスムーズに流れてゆく。
思いやり深い弟夫婦の家に世話になり、子供とも再会して、離れていた4年間の溝を埋める努力をし、だんだんと仲良くなる。
そして、失踪している彼の妻を捜す為、男と息子は弟夫婦に無断で旅に出る。

このヘンまでは、実に流れが良い。最初はしっくりしなかった息子とだんだん打ち解けてゆく様子、弟夫婦の困惑ぶり、男が自分なりに努力しながら立ち直ろうとしてゆく様子などが、とても丁寧に描かれている。

で、ちょっとした冒険の末にやっと妻を発見するのだが、若く美人の妻は風俗に身を落としている。店に客として潜入した男は、自分なりの方法で妻との語らいを始めるのだが…



…始めるのだが、この後がどうもいけない。今まで黙りこくっていた男が、それまでの鬱憤を晴らしているのか、勢いがついたのか、突然洗いざらいぶちまけて延々と喋りだすのはいいとしても、その内容じたいが、ちょっとお粗末過ぎないか?

このクライマックスの筈の場面で、私は一挙にこの映画が嫌になってしまい、早く終わらないかなー、とイライラしだした。とにかく長い、うざい、つまんない、くだらない、聞きたくない。
早送りしたくなるのをこらえつつ、我慢して見ていたが、なんだか仕事でくだらない愚痴を聞かされるのをこらえているみたいな気がした。映画見て、何でこんな思いをしなくちゃならないのだ(笑)。

ホラー映画のストレスはいい刺激になって大好きなのだが、このシーンの問わず語りの暴露話を我慢するのは、かなりうんざりした。

覗き部屋のマジックミラーごしの会話で、女性のほうからは客の顔が見えない。客は電話で女性にいろいろ注文をつけ、ヌードにさせたりして楽しむという商売で、男がこの状況で妻と再会するという設定じたいは、なかなか秀逸だと思う。
男は自分自身と決着をつけ、妻にそれを伝える為に、勝手に話を始める。

「僕の知り合いで、こういう人達が居た。女は若く、17歳か18歳ぐらいでかなりの美人。男はそうとう年を取っていて、粗野で無教養。二人は結婚したが、想像を絶するほど愛しあっていた二人は、かたときも離れていられない。男は仕事を辞めて女と常に一緒に居た。」と、話は始まる。

ここらへんで早くも、見ている私は「おいおい、そりゃないだろう。若くて美人の奥さん持ったらちゃんと働けよ。でないと逃げられちゃうに決まってるだろ」と思ってしまった。出だしから先行き真っ暗で、途中経過を聞かなくても、そりゃあ、おかしくなるのが当たり前、という感じ。
早い話が、世間によくあるグータラ亭主の話だったんだーと、早くもうんざりし始めた。

で、男の独白が延々と続く。
「男は金がなくなると仕事にゆく。そしてまた辞めて、女と一緒にいる。女は不安になった。男はだんだんと、仕事からわざと遅く帰るようになった。女が嫉妬しないと、愛していないのではないかと不安になる。しまいに、女が逃げ出すのを恐れて、足に鈴をつけてベッドに縛り付けるようになった」

客側の顔が見えない女性のほうは、「え?それって私と彼の話じゃないの」
とだんだん気づいて顔色が変わってゆくのだが、見ているこちらは話の内容の余りのバカバカしさに呆れ果てるばかり。
(あーなるほどなるほど、そういうパターンなのね。居ましたよ、前に付き合ってた男の中にもそういうタイプが。その性癖が分かった途端にポイしてきましたがね、私は。1日に10回も電話してきやがって。それでも別れずにいるのを割れ鍋に綴じ蓋って言うんだけどね、どっちにしても、あーくだらない)とそっちの方向に考えが走ってゆく(笑)。

で、子供が生まれた後は、男は真面目に働くようになったが、今度は女がイラつき始めたらしい。別に不思議でも何でもないよ。

製作側のキャッチでは、これは「余りにも重い愛の形」ということになってるらしい。しかし見ているこちらでは、なんじゃい、こんなの、ただのぐうたらなストーカー亭主の話じゃないか、としか思えない。
こういう過程を辿る離婚なんてそれこそ掃いて捨てるほどあるのに、なんでよりによって、こんなつまらない痴話喧嘩の話を取り上げるんだ(笑)としか思えなくなってきた。

この語りが約20分ぐらい?その後、男は女に子供を迎えにゆくように告げて去るのだが、おい、それでいいのか?無責任じゃないの?若い風俗嬢に子供を任せて、自分は心が壊れたから去るって…
そんな無責任な奴だから、自分の女房に焼き餅妬いて勝手に心が壊れるんだよ。

幾ら映画だからって、こんなカップルを詩情豊かに描かれても、余りのバカバカしさに全然ノレませんわ。
こういう、男が無職、女が風俗嬢ってケースはそのヘンにゴロゴロしてます。一緒にいた時にヒモやってたわけじゃないにしても、結局は似たようなもんでしょう。
能力もなくまともなことやってないから嫉妬するタイプの人間を、この雰囲気の映画の主役にしようとしても無理な話。サイコ映画や犯罪ものならいいかもしれないけどね。
それに足に鈴をつけるのは別にして、嫉妬からとても常識では考えられない行動に走る男女は、ゴマンとあります。

前に、亭主の嫉妬のうざさにやっと離婚しました、という女性と話していて
「あんた、洋服を全部、鋏で切られたでしょ」と言ったら
「何でそこまで知ってるの?」
とびっくりしてました。比較的、男性と揉めない私でも、そのぐらい分かります。

こんなつまらない話を、これだけ薫り高い作品に仕上げてしまうのは大した手腕だとは思うし、結局この映画が私に合わなかったといってしまえばそれで終わりなのだが、せっかく中盤までが良かっただけに、後味のつまらなさが悔やまれる映画でした。

そういう常識的な捕らえ方をしてしまったら、芸術なんて成り立たないと言われそうなのは重々承知です。しかし、こんなレベルの男女の関係を「余りに重い愛の形」などと言われてもなあ…としか思えない結末でした。

子供を使うのは、泣かせる映画としては安易すぎる手段だし、この映画のラストのどこが感動できるのでしょうか。
「元の家族には戻れないから」とカッコよく去った男は、どうなるのでしょうか?どこかでしょぼくれてひっそりと生涯を終えるのでしょうか?息子の気持ちはどーするの?分かりません…
自分の心が…って、それは単に我が強くて自分の気分にこだわりすぎなだけなんじゃ、と仏教徒な私は思うわけであります。こんな奴は勝手に去って、禅寺にでもこもってピシピシ叩かれてろ。

と、まあ真面目に取りあったり怒ったりするのがバカバカしいことを、勝手にグダグダ書いてる私なのですが、もともとこの監督って人間を描きたかったのか、それじたいがちょっと疑問。

早い話がこの映画は、テキサスの荒涼とした自然やスライドギターの音色で一篇の詩を歌い上げる為、そこにドロドロした人間の感情を対比させたのではないか、という見方もできます。
自然の雄大さと対照的な、卑小なダメ人間を小道具として配置しただけ、という解釈もできると思うのです。それにしても、肝心の男女がグダグダすぎて、その狙いも成功してるとは思えませんが。

「愛」とか「恋」とかを夢のように思い描いている人には申し訳ないですが、こんなのは愛の物語なんかには思えませんので、悪しからず。
今後、ヴィム・ヴェンダースと聞くと、ちょっと警戒しちゃいそうです。中盤まではせっかく、サウンドトラック盤、買いだ!と思ってたのに、もうBGM聞く気になれません。

この監督って、5回も離婚したそうですが、たぶん監督自身が、安定した男女の関係を築けない人なのかもしれません。だから、この映画の男女も似たタイプだという可能性もあります。
映画の中でも、男の両親にちょっとアイタタな部分があったという背景が出てきます。人間の性格とか運命って、両親との関係が基本にあるので、もっとまともな行動しろと言っても、なかなかそうはいかないのが、困るというか、面白いところでもあります。


こういうタイプを私は「問題のないところに問題を作り出す人々」と呼んでいます。
問題を作り出すこういうタイプは、映画や小説の中には居てもらわないと、お話が続かないので貴重な存在です。でも実際に身の回りに居たら、非常に迷惑です。ところが実際に、かなりの割合、存在するのです。

例えば、ただ道を歩いているだけでも、真っ直ぐに無事に歩けない人があります。
ある女性を例に挙げると、家から職場まで行くだけで、普通に歩かずに、ちょっと過激な服装をして、シャナリシャナリと歩いたりします。美人な自分をかなり意識しています。そうすると、それを見た遊び好きの男が、「ちょっとオネエサン、美人だね」と声をかけてきたりします。
彼女は黙って通り過ぎることができず、どこかで反応します。
それを察知した男から「ねえ、携帯の番号教えてよ」と言われると「だって今、持ってないの」と答えます。言葉の行間に「うっふん♪」と書いてあります。
「じゃあ、どこに電話すればいいの?」と言われると、なんだかんだ言ってなかなか素直に教えません。確かに、いちおう断ってはいますが、どんどん会話が深まっていきます。
こうなるともう「YES」を言ったも同然なので、こういう人はいつの間にかラブホテルで、男と絡みあったりしています。

で、あんまり賢くないので、勢いでイタしてしまい、避妊してません。すぐに妊娠し、男からも家や会社に電話がかかってきたりして、それが亭主にバレ、すったもんだの大騒動になります。
こういう女性と結婚してしまうようなそそっかしい男はあんまり賢くないので、怒って暴力を振るったりして、何もかも滅茶苦茶にしてしまいます。

こんなことが何度か繰り返された後、女性は占い師のところに行き「主人が私に暴力を振るうのです。前の彼もそうです。私は男運が悪いのでしょうか?」などと相談したりします。

普通の人は女性の訴えを聞いて「大変ねー悪い男にひっかかってしまったのねー」と同情しますが、経験豊かな占い師はそう簡単には信じません。女性の訴えは一面から見ているだけのことで、他の見方では、当人に問題がある場合が多いことも知っています。

この占い師というのは、私のことではありません。
また、この話はフィクションであり、実在の人物とは一切関係はありません。

問題のないところに問題を作って楽しみたい方は、勝手にどうぞ。でも、解決は自分でして下さい。
なんだか、ヘンな映画を見たので、私自身が壊れそうになってしまい、また映画の話から脱線してしまいました…

tao

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