駅での出来事

15 September, 2009

ターミナル駅で電車を乗り換えようと、ホームを歩いていた。

すると、ホームに居た一人の若い女性が、突然フラフラしはじめ、その場に崩れ落ちた。顔色が真っ青で、病気なのは確かだとしても、相当に具合が悪いらしい。
人も大勢いるし、駅員も何人かいる。近くに居た駅員がすぐさま女性に駆け寄って行き、別の駅員が違う方向に走っていったので、すぐに担架が運ばれてくるだろう。
このまま病院行きだな、と思い、そのまま電車を待ちながら、見るともなしに見ていた。

「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」
女性に駆け寄った駅員は、顔を覗き込みながら、大声で呼びかけている。
女性はほとんど意識がないようだ。

こんな時に、この「大丈夫ですか!」ぐらい、マヌケな台詞はないと思う。大丈夫じゃないから、こんなところで倒れてしまったんじゃないか。

まあ、救急医療では、何でもいいのでとりあえず大声で話しかけることになっているのかもしれない。
しかし、ほとんど意識がなくどんな病気かも分からないのに、こんな風に辺りじゅうに響くような大声で呼びかけるのは、どんなものなんだろう?その辺は私はよく分からない。

この駅員、やたらに声はでかいし、背も高くて太っている。若さゆえとは言いながら、ちょっとデリカシーないんじゃないか?

と思いながら見ていたら、彼、いきなりサッと自分の上着を脱いで、女性の頭の下に敷きはじめた。

その動作が、芝居がかっているという以上に、おごそか、とも言えそうな感じだったので、私はこんな状況にも関わらず、プッと吹き出しそうになってしまった。


ま、みんなが土足で歩く通路に、顔を直接つけて横たわっているわけだから、いいことだとは思いますけどね。
でも何も「サッ!」と自分の上着を脱がなくても、女性が手に持っていた上着もあるし、バッグや紙袋も持っていた。駅員クンの上着である必要性は、そんなに高くはない状況だったと思う。

駅員クン、倒れた人が若い女性でなくて、初老のジイサンだったとしても、同じことするかい?
小汚い服装のホームレスだったら?

私は前、渋谷の地下鉄で、通勤ラッシュの最中に、狭い階段の途中にホームレスのオッサンが頭を下に逆さになって倒れているのを見た。倒れてる、というよりも、落ちているとしか言いようがない状態だった。
生きているかどうかも定かではなかった。

それなのに、波うつ群集は誰一人として注意を払わず、ただ傍を急ぎ足で通り抜けて行った。実は、かくいう私もその一人…
あまりに場所が場所だった為、一瞬あっけに取られてしまい、次の行動が決められなかったのだ。後で気になってしょうがなかったけど。


女性を大切そうに抱え込み、やたらに張り切って、どことなく満足気なムードさえ漂わせているヒーロー駅員クンを後に、私はこみ上げてくる笑いを押えつつ、やってきた電車に乗り込んだのでした。
(早く彼女できるといいね。そしたら、大切にしてあげて下さい)と心の中で呟きながら。
でも、その上着を洗わずに取っておくようなことはやめてくれぇ。

tao

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